「グレートピレニーズは金持ちの犬」というイメージについて、疑問に思ったことはありませんか?雪のように白く巨大な姿は、確かに優雅で特別な存在感を放っています。しかし、そのイメージは一体どこから来るのでしょうか。
この記事では、単なる噂やイメージだけでなく、「グレートピレニーズ金持ち」というキーワードの裏にある具体的な理由を徹底的に掘り下げていきます。これから解説するのは、グレートピレニーズとは一体どんな犬種なのかという基本的な情報から、その大きさと体重、特徴的な被毛と毛色のお手入れ、そして穏やかさと頑固さを併せ持つ複雑な性格についてです。さらに、しつけが難しいと言われる理由、気になる値段の平均や生涯にわたる高額な維持費、10年を超える寿命の中で向き合うべき健康問題、万が一の事故や里親探しの現実、そして日本では珍しい犬種である背景まで、あらゆる角度から分析します。この記事を読めば、なぜこの犬種が特別なライフスタイルを要求するのか、その全ての答えが見つかるはずです。
- なぜ「金持ちの犬」というイメージがあるのかが分かる
- グレートピレニーズを飼うために必要な全てのコストを把握できる
- 飼育の楽しさと、それ以上に重大な責任を理解できる
- 自分や家族が本当にこの犬種を迎えられるか判断できる
「グレートピレニーズ金持ち」説は本当?その理由を解説
- そもそもグレートピレニーズとはどんな犬種?
- 圧倒的なグレートピレニーズの大きさと体重
- 美しい被毛・毛色についての基礎知識
- 穏やかで忠実とされるグレートピレニーズの性格
- なぜグレートピレニーズのしつけは難しいのか
そもそもグレートピレニーズとはどんな犬種?

グレートピレニーズがどのような犬種かを理解するには、その歴史を遡る必要があります。彼らのルーツは、その名の通りフランスとスペインの国境に連なるピレネー山脈にあります。紀元前から家畜をオオカミやクマから守る「家畜護衛犬(ライブストック・ガーディアン・ドッグ)」として、過酷な自然環境の中で活躍してきました。
この役割を果たすため、彼らは人間の指示を待つのではなく、自らの判断で状況を評価し、脅威に立ち向かう高度な知性と独立心を培ってきました。この経験が、現代のグレートピレニーズに見られる、何事にも動じない落ち着きと、自ら考えて行動する性質の根源となっています。
17世紀になると、その優雅で威厳ある姿がフランスの貴族社会の目に留まり、ルイ14世によって「フランス王家の犬」として宮廷に迎えられました。このときから、彼らは所有者の権威を象徴するステータスシンボルとしての側面も持つようになります。
歴史が育んだ二面性
現代のグレートピレニーズは、これら二つの歴史を受け継いでいます。一つは、自律的に行動するピレネーの「労働者」としての魂。もう一つは、人々に愛されるヴェルサイユの「宮廷人」としての魂です。多くの飼い主は後者の優雅なイメージに惹かれますが、実際に家庭に迎えるのは、極めて有能な「護衛犬」なのです。この二面性を理解することが、飼育の第一歩と言えるでしょう。
圧倒的なグレートピレニーズの大きさと体重

グレートピレニーズは、犬の中でも最大級のサイズを誇る「超大型犬」に分類されます。その圧倒的な大きさは、飼育環境に直接的な影響を与える最も重要な要素の一つです。
具体的なサイズは以下の通りです。
- 体高(地面から背中までの高さ): オスは70cm~80cm、メスは65cm~75cmが標準です。
- 体重: オスは50kg~60kg、メスは40kg~52kg程度が一般的です。
この大きさがどれほどのものか、他の犬種と比較するとより明確になります。
犬種 | 分類 | 平均体高(オス) | 平均体重 |
---|---|---|---|
ゴールデンレトリバー | 大型犬 | 56-61cm | 25-34kg |
グレートピレニーズ | 超大型犬 | 70-80cm | 45-60kg |
セント・バーナード | 超大型犬 | 70-90cm | 64-120kg |
見ての通り、大型犬として知られるゴールデンレトリバーよりも一回りも二回りも大きいことが分かります。この「巨人」という物理的な現実は、住居スペース、車のサイズ、そして飼い主自身の体力にも相応のレベルを要求します。軽い気持ちで飼い始めると、その存在感に圧倒されてしまう可能性があるのです。
美しい被毛・毛色についての基礎知識

グレートピレニーズの最も象徴的な特徴といえば、やはりその純白で豊かな被毛でしょう。この美しい被毛は、ピレネー山脈の厳しい気候から身を守るために発達した、非常に機能的な「ダブルコート」構造になっています。
被毛の構造と毛色
外側は長く粗い上毛(オーバーコート)、内側には羊毛のように密生した柔らかい下毛(アンダーコート)がびっしりと生えています。この二重構造が、優れた断熱性を発揮し、寒さから身を守るのです。
基本色は白ですが、頭部、耳、尾の付け根などに、グレー(アナグマ色)、淡いイエロー、オレンジなどの斑(マーキング)が入ることもスタンダードで認められています。市場では純白の個体が好まれる傾向にありますが、これらのマーキングも犬種本来の魅力の一つです。
美しさを維持するための覚悟
この壮麗な被毛を維持するには、相応の覚悟が必要です。グレートピレニーズは非常に毛が抜けやすく、特に春と秋の換毛期には驚くほどの量の毛が抜けます。毎日のブラッシングは、毛玉を防ぎ、皮膚の健康を保つために欠かせない日課となります。この手入れを怠ると、皮膚病の原因にもなりかねません。
また、後肢には2本ずつの狼爪(デュークロー)があるのも特徴的で、これは犬種標準で必須とされる、彼らが原始的な系統であることを示す証です。
穏やかで忠実とされるグレートピレニーズの性格

グレートピレニーズの性格を「穏やか」という一言で片付けることはできません。彼らの気質は、前述の歴史が作り上げた「二面性」に集約されます。
まず、家族と認めた相手に対しては、非常に愛情深く、忍耐強い態度を示します。その大きな体で、子供や小さなペットにも優しく接することができる、心優しい巨人としての一面です。これは、家畜の群れという「家族」と共に平和に暮らしてきた護衛犬としての名残でしょう。
一方で、彼らの心の奥底には、縄張りや家族を守るという強い防衛本能が刻み込まれています。ひとたび自分のテリトリーに脅威が迫ると判断すれば、その態度は一変。見知らぬ人や動物には強い警戒心を示し、勇敢に立ち向かいます。これは、彼らが単なるペットではなく、生まれながらの「守護者」であることの証明です。
「頑固」ではなく「独立心」
グレートピレニーズは、しばしば「頑固」と評されますが、これは彼らの持つ高い知性と独立心の裏返しです。彼らは、意味のない命令に盲目的に従うことを良しとしません。常に「この命令にはどんな意味があるのか」「本当に家族を守るために必要なことか」を自ら判断しようとします。この特性を理解し、力で服従させるのではなく、信頼関係を築くことが、彼らと暮らす上での鍵となります。
なぜグレートピレニーズのしつけは難しいのか

グレートピレニーズのしつけが難しいと言われる理由は、前述した彼らの「独立心の強さ」と「自ら判断して行動する性質」に直接起因します。
彼らは、飼い主の指示を鵜呑みにする犬ではありません。特に、強圧的なトレーニングや、目的が不明瞭な反復練習には興味を示さず、反発することさえあります。訓練を成功させるには、犬の知性に敬意を払い、優しさと一貫性をもって、信頼に基づくパートナーシップを築く必要があります。
この挑戦をさらに複雑にするのが、彼らの成長スピードです。体が大きくなるのは早いですが、精神的に完全に成熟するには約2年という長い時間が必要です。つまり、飼い主は非常に根気強く、長期間にわたって一貫したトレーニングを続ける覚悟が求められます。
しつけ失敗のリスクは計り知れない
子犬の頃からの徹底した「社会化」は、何よりも重要です。様々な人、場所、音に慣れさせ、何が本当に危険で何がそうでないかを学ばせなければ、見知らぬものすべてを敵とみなし、過剰な吠えや攻撃行動につながる可能性があります。
体重60kgにもなる犬をコントロールできなければ、それは社会にとっての脅威となり得ます。悪気のない飛びつき一つで、子供や高齢者に大怪我を負わせるリスクがあることを、決して忘れてはいけません。
「グレートピレニーズ金持ち」イメージを裏付ける現実
- 子犬の値段の平均と初期費用
- 生涯にわたる高額な年間維持費
- 10年以上のコミットメントとなる犬の寿命
- 制御不能は危険。考えられる事故のリスク
- 飼育放棄の現実。里親になる犬もいる
- 日本では珍しい犬種である客観的データ
子犬の値段の平均と初期費用

「グレートピレニーズ金持ち」説を裏付ける最初の要素は、やはり初期費用です。子犬を迎えるための価格は、決して安価ではありません。
子犬の値段は、血統やブリーダーによって変動しますが、おおむね25万円から80万円、中心的な価格帯は40万円から50万円前後となっています。親犬がドッグショーで優秀な成績を収めている場合などは、さらに高額になることもあります。
しかし、これはあくまでスタートラインに過ぎません。超大型犬である彼らを迎えるためには、様々な初期用品を揃える必要があります。
項目 | 費用目安 | 備考 |
---|---|---|
子犬の生体価格 | 400,000円 ~ 500,000円 | 血統やブリーダーにより変動 |
飼育グッズ一式 | 40,000円 ~ 60,000円 | 大型ケージ、ベッド、食器、トイレ用品など |
初期費用 合計 | 440,000円 ~ 560,000円 | 初年度のワクチン代などは別途必要 |
このように、家族として迎える最初の段階で、高級な家電製品が買えるほどのまとまった資金が必要になることが、まず最初のハードルとなります。
生涯にわたる高額な年間維持費

グレートピレニーズの飼育における最大の経済的障壁は、初期費用よりも、生涯にわたって発生し続ける「維持費」にあります。このランニングコストこそが、「金持ちの犬」というイメージを決定づける最大の要因です。
その内訳は、体の大きさに比例して全てが高額になります。
費用項目 | 月額目安 | 年間目安 | 備考 |
---|---|---|---|
食費 | 15,000円~25,000円 | 180,000円~300,000円 | 超大型犬用のフードは量も多く高価 |
消耗品費 | 5,000円~10,000円 | 60,000円~120,000円 | 大型ペットシーツ、シャンプー等 |
医療費(予防) | 4,000円~6,000円 | 48,000円~72,000円 | フィラリア・ノミダニ予防薬は体重比例 |
トリミング | 1,500円~15,000円 | 18,000円~180,000円 | サロン利用時は1回15,000円以上が相場 |
ペット保険 | 5,000円~10,000円 | 60,000円~120,000円 | 超大型犬は保険料も高額 |
環境費(冷房費) | 2,000円~20,000円 | 24,000円~240,000円 | 夏季は24時間冷房が必須 |
年間合計 | – | 390,000円~1,032,000円 | 病気や怪我の治療費は含まず |
生涯コストは高級車一台分
この年間コストを、平均寿命である12年で計算すると、生涯費用は約470万円から1,200万円以上に達する可能性があります。これは、高級車一台分に匹敵する、あるいはそれを超える金額です。この莫大な費用を、余裕をもって負担できる経済力がなければ、責任ある飼育は難しいと言わざるを得ません。
10年以上のコミットメントとなる犬の寿命

グレートピレニーズの平均寿命は10歳から12歳とされており、これは他の超大型犬種と比較すると、比較的長い部類に入ります。愛犬と長く一緒にいられることは何よりの喜びですが、これは同時に、飼い主にとって長期的な責任を意味します。
前述の通り、高額な年間維持費を10年以上にわたって支出し続けるという、経済的なコミットメントが必要になるのです。
注意すべき特有の病気と高額な治療費
頑健な見た目とは裏腹に、グレートピレニーズはその大きな体格ゆえに、かかりやすい病気が存在します。これらの治療には、しばしば高額な医療費が伴います。
- 股関節形成不全: 大型犬に多い遺伝性の関節疾患。外科手術には40万円以上かかることもあります。
- 胃拡張・胃捻転症候群: 胸の深い犬種に起こりやすい、命に関わる緊急疾患。発症すれば一刻も早い手術が必要で、費用は20万円から30万円以上に及ぶことも珍しくありません。
- 骨肉腫: 大型犬に比較的多くみられる悪性度の高いがんです。
- 熱中症: 寒冷地仕様の体は日本の夏に極めて弱く、厳格な温度管理が必須です。
これらの突発的な数十万円単位の医療費に対応できるだけの経済的な余力(貯蓄やペット保険)が、事実上必須となります。
制御不能は危険。考えられる事故のリスク

グレートピレニーズを飼育する上で、事故のリスクは常に考慮しなければならない重要な問題です。そのリスクは、彼らの圧倒的な体格と、生来の保護本能に起因します。
意図せぬ傷害
家族に対しては非常に愛情深い犬種ですが、その巨体が原因で思わぬ事故が起こり得ます。例えば、喜びを表現してじゃれて飛びついただけでも、相手が子供や高齢者であれば転倒させ、骨折などの大怪我につながる危険性があります。
防衛本能によるトラブル
縄張り意識と家族を守ろうとする本能は、非常に強力です。しつけや社会化が不十分な場合、来訪者や散歩中にすれ違う人や犬を「脅威」と誤認し、激しく吠えたり、威嚇したりすることがあります。これがエスカレートすれば、咬傷事故といった深刻な事態を招く可能性もゼロではありません。
これらのリスクを管理するためには、飼い主による絶え間ない注意と、犬を確実にコントロールできる高度な技術と体力が求められます。ただ可愛いから、という理由だけでは、この重大な責任を全うすることは難しいのです。
飼育放棄の現実。里親になる犬もいる

非常に残念なことですが、ペットの里親募集サイトでは、時折グレートピレニーズの姿を見かけることがあります。その募集理由を分析すると、この犬種を飼育する上での典型的な困難が浮き彫りになります。
里親に出される理由は、「家庭の事情」という言葉でまとめられがちですが、その背景には飼い主の準備不足が隠されています。
- 想像以上の大きさ: 成長後のサイズに対応できず、持て余してしまう。
- 経済的な困窮: 想像以上にかかる維持費や、突然の高額な医療費が払えなくなる。
- 手入れの大変さ: 毎日のブラッシングや抜け毛の量に、心が折れてしまう。
- 行動上の問題: 吠えや警戒心の強さをコントロールできず、近隣トラブルに発展する。
- 生活環境の変化: 転勤や離婚、飼い主の高齢化などで、世話をしきれなくなる。
厳しい譲渡条件が物語るもの
保護団体がグレートピレニーズの里親を募集する際には、多くの場合、「庭付きの一戸建てであること」「ピレニーズの飼育経験があること」「十分な収入があること」など、厳しい譲渡条件が課されます。これは、二度と不幸な経験をさせないためであると同時に、この犬種を幸せにするには、それだけの高いハードルをクリアできる環境が不可欠であることを、皮肉にも証明しているのです。
日本では珍しい犬種である客観的データ
グレートピレニーズが特別な存在感を放つ理由の一つに、その「稀少性」があります。ジャパンケネルクラブ(JKC)が発表する犬種別登録頭数を見れば、その事実は一目瞭然です。
2024年のデータによると、グレートピレニーズの年間登録頭数はわずか358頭で、全犬種中35位でした。これがどれほど少ない数字か、他の犬種と比較してみましょう。
順位 | 犬種 | 2024年 登録頭数 |
---|---|---|
1位 | トイ・プードル | 76,013頭 |
13位 | ゴールデン・レトリーバー | 4,501頭 |
35位 | グレート・ピレニーズ | 358頭 |
(参照:ジャパンケネルクラブ 2024年犬種別犬籍登録頭数)
稀少性は「結果」である
このデータが示すのは、衝撃的な事実です。人気犬種のトイ・プードルとは比較にならず、同じ大型犬のゴールデン・レトリーバーと比べても10分の1以下です。年間358頭という数字は、日本全国で1日に1頭も新しい家族が決まっていないことを意味します。
この稀少性は、犬種の人気がないからではありません。むしろ、本稿で解説してきた全ての厳しい飼育要件を満たせる「資格のある家庭」が、そもそも日本に極めて少ないことの、直接的な反映なのです。
結論:グレートピレニーズ金持ち説の真相
「グレートピレニーズは金持ちの犬か?」という問いに対する答えを、この記事を通じて多角的に探ってきました。最終的な結論として、以下のポイントに要約できます。
- グレートピレニーズのルーツはピレネー山脈の家畜護衛犬
- フランス王家にも愛された歴史から高貴なイメージを持つ
- 体重60kgにもなる超大型犬で圧倒的な存在感がある
- 日本の高温多湿な夏は苦手で24時間の冷房管理が必須
- 美しいダブルコートは抜け毛が多く毎日の手入れが欠かせない
- 家族には愛情深いが強い防衛本能と警戒心も併せ持つ
- 賢く独立心が強いためしつけには根気と理解が必要
- 子犬の価格は40万円から50万円が中心価格帯
- 食費や医療費など年間維持費は100万円を超えることもある
- 生涯コストは高級車一台分に匹敵する可能性がある
- 平均寿命は10年から12年と長く長期的な責任が伴う
- 股関節形成不全や胃捻転など高額な治療費がかかる病気に注意
- その巨体ゆえに意図せぬ事故を起こすリスクも存在する
- 飼育の困難さから飼育放棄され里親を探すケースもある
- 日本での年間登録頭数はわずか358頭と非常に珍しい
結論として、「グレートピレニーズ金持ち」という言葉は、単にお金の有無だけを指しているのではありません。経済的な富はもちろん、広大な空間的な富、十分な時間的な富、そして犬種を深く理解する知的な富、これら全ての「豊かさ」を兼ね備えて初めて、この犬種の真のパートナーとなり得るのです。